佐柳 陽
YANAGIe合同会社 代表
人材業界の"砲兵"が語る不器用な誠実さ後編
個性豊かな"特攻野郎Aチーム"を率い、社会のお困りごとに向き合う佐柳代表。"人種"の異なる社員を無理に矯正せず、強みを引き出すマネジメントの真意とは。AIの進化を「理念に向き合う余白」と捉える彼が、余白を埋めた先に見据える未来と求める仲間への想いを語ります。
「運」を天に任せ、「考え方」を研ぎ澄ます
――先ほどナポレオンの話が出てきて驚いたのですが、以前佐柳さんとお話しした際に、ドラッカー氏と稲盛氏を非常に尊敬していると仰っていましたよね。
佐柳:そうですね。
――あの時はあまり深く伺えなかったのですが、経営者として、彼らのどのような点に最も感銘を受けているのでしょうか。
佐柳:えーっと……。やっぱり僕も、実際に自分で会社をやってみて思うんですけど、結局ね、誰も教えてくれる人って、周りにはいないんですよ。
やっぱり、前の経営者が残した言葉とか本とか、体系的にわかるものっていうのは、いま、世の中にそれぐらいしかないんですよね。
僕が一番好きなのは、あの任天堂の3代目の、山内溥さんっていう人がいるんですよ。ファミコンを作った時の社長で、メジャーリーグのシアトル・マリナーズのオーナーになって、亡くなる時に京都にでっかい病院を寄付しはった方なんですけど。あの人の口癖が、「運、運」なんですよ。任天堂って「天に任せる」と書く。だから「全ては運です」と。生涯、自分はたまたま運が良かっただけだと言い続けた人なんです。
――努力よりも、「運」だと。
佐柳:ええ。まあ、それはもちろん努力はしてるんですけど、最後は運だと。「人間である以上、運が絶対なんです」みたいなことを言うんですね。松下幸之助[注8]さんも、9割ぐらいは運だっていう考え方で「1割ぐらいは自分でなんとかできる範囲としてあるんじゃないか」みたいなことを言ってますし。
まあ、「運」っていうものをものすごく言うんですよ。それは確かにそうなんですけど、でも僕らとしては「実務」を知りたいわけで。結局どこまでいっても運なのはわかるんですけど、かといって僕が何をしていいかわからないじゃないですか、みたいな話で。
その時にやっぱり、ドラッカーさんとか稲盛さんっていうのは、自分で会社を経営してきて、「こういう時はこう、こういう時はこう」みたいなのが実体験として裏打ちされてるから、読んでいるとすごいやっぱり腑に落ちるんですよね。「なるほど、そうか」みたいに思うことが、まあ、すごくあって。
――特に稲盛氏の、どのあたりに「なるほど」と感じるのですか。
佐柳:ドラッカーさんはそれを体系化している人なので、もちろん大事なんですけど。特に稲盛さんなんかは、やっぱりその、実務家でありながら、最後はやっぱり「考え方」っていう理念のところに生き着くんですよね。
情熱、能力、考え方……みたいな感じで、積み上げていってその概念に至ってはる。
僕らとしたら、やっぱり「なるほど」と思うことがすごい多いんですよね。やっぱりあの、前の会社(前職)も、やっぱり「考え方」がマイナスやったんで、結局いいところには行けなかったんだな、っていう実感がある。それがものすごく刺さってるというか……ええ。
――「考え方」がマイナスだと、どんなに能力があっても結果がマイナスになる、という。
佐柳:そう。昔、稲盛さんの本が置いてある会社からは逃げたほうがいい、なんて言う人もいたらしいんですよ。(笑)なんでかって言うと、稲盛さんっていうのは現状を絶対によしとしない。「なあなあで会社やるぐらいやったら、やらん方がええ」とか「大学出ても仕事があるなんて当たり前じゃないよ」みたいなことを言う。どっちかっていうと、あの……"過激派"なんですよ。だから自分の努力はもちろんしなあかんし。やっぱり鹿児島の人なんで、なんて言うんですかね……すごい地に足がついてるというか。
「自分もどんな会社を経営することになったとしても、例えば街の食堂をやることになったとしても、自分は絶対に結果を出す自信がある」とか。「利益率っていうのも急に取れるもんじゃなくて、取れる商売にしていくのが会社なんだ」と言ってて。自分が何をすべきか、何をしたらいのか、というところに対して、一回とことんやった人なんで、やっぱり話が分かりやすいんですよね。その辺りが一番刺さる部分かなって思います。
――テクニックではない、経営の本質ですよね。それを今、今後の経営にどう活かされているのでしょうか。
佐柳:そうですね。やっぱり事業っていうのは、僕なりに考えてることで言うと、とりあえず「『考え方』がマイナスにいかないようにしないといけないな」と思ってるんですよ。他のものについては、まあ……そんなに大きく変えれない部分もありますけど、考え方だけはマイナスに行ってしまうと、もう全てがマイナスになっちゃう。ならとりあえずまあ、少なくてもいいから、プラス側に出とかなあかんなっていうことですね。
だから、「何をやるにもまず考え方」っていうのが自分の中で判断基準としてあります。確かに、100万円、200万円ポンと入ってくるような商売が、あるっちゃあるんですよ。でもこれって、乗ったらゆくゆくいい話なんかな、これって「考え方」として受け取っていいお金なんやろか、やっていい仕事なんやろか、っていうのは、すごい考えますね。
なぜ人事は"民主化"が進まないのか
――仕事を受けるかどうかの判断基準にまで、その哲学が浸透している。では、テクノロジーや人事が抱える「業界の課題」については、どのように捉えていますか。
佐柳:僕は、えーっと……本来であればテクノロジーも人事も、どちらも"民主化"されていくものだと思うんですよ。
――"民主化"、ですか。
佐柳:えーっと、例えばホリエモン[注9]とかがいた時代は、ホームページを作るだけで多分300万とか、月の維持費が15万円とか、かかってたと思うんですよね。でも、今ホームページを作るのにそんなにお金出す人っていないと思うんです。理屈がわかる人なら自分で作れますし。よっぽど手間がかかって、「人件費考えたら作ってもらったほうが安いな」と考えても、予算100万円で月の運営費も入れて、みたいな感じですよ。
裏を返せば、どんどん簡単にできるように進んでいってるんです。今は「Google Antigravityとかノーコードツールも充実してて」[注10]って言って、「いい感じのサイトを作ってください」って入れるだけでできるんですよ。そして、作り方さえ覚えとけば、どんどん自動でやってくれる、と。
誰しもが簡単にできるように、世の中はなっていってる。技術はそうやって開発されてるんです。人材業界も、こういう技術が進んで、強力なツールもいっぱいあるんですけど……なぜか広まってないんですよ。コストも高いまま。
――人材業界の何が、"民主化"を止めているのでしょうか。
佐柳:やっぱりエージェントも35%もらわんとやってられへん、派遣会社も絶対これだけもらわんとやってられへん、っていうのがどうしてもあるんですよ。
でも、お客さんからしたら「こんなに金かかんの?」っていう話で。本当は、ちゃんと使うものを使えば、それなりの金額で済むツールって世の中に山ほどあるんですよ。
特に大手さんが、良くも悪くも、「人材って大事でしょ、だからお金をかけていいでしょ」っていう理屈を、究極まで高めちゃったんで。「お金をかけないといい採用ができない」と思い込まされている部分はあるんです。
じゃあ、今お金を出したらいい採用ができるんか、って言われると、できないんですよね。100万円、200万円使ったけどどうもなりませんでした、みたいなことが今はいっぱいある。求職者の流れも変わってるし、それに合ったツールとかやり方をやればいい。だけどやっぱり会社として、それができていないところが多いですね。
――その「気づいていない」状況も、社内構造が生み出している課題ですよね。
佐柳:ええ。あと、実はパソコンに強い人たちっていうのが、僕よりちょっと上の世代なんですよ。僕から10個上ぐらいまで、今45歳から55歳ぐらいまでの人たちが、パソコン黎明期の人たち。
実はこの世代、結構使えるんです。何かあるとブルースクリーンで画面がバーンと落ちて、「なんやこれ」みたいなことを2、3日格闘して直してた世代なんで、仕組みや使い方が体感的にわかる。
でも、僕より下の世代になると、もう「スマホネイティブ」なんです。生まれた時からこれ(スマホ)でやってるから、操作はできるけど、なんで動いてるかまではわからない。
――今の若い世代は、原理原則までは知らない。
佐柳:そうです。利用者で終わってる。そして企業側としても、就職氷河期世代を雇用してこなかったんで、大手であっても意外とITリテラシーが高くない。その世代がごそっと抜けてるから。
逆に、中小企業でたまにいる45歳ぐらいの兄ちゃん達の方が、ITリテラシーが凄かったりするんですよ。「これちょっとやってくれへん?」って言われたら、「あ、できましたよ」って。大手の採用がうまくいってないのは、その構造的な問題もあると思います。
僕自身、1983年生まれで。卒業が遅れたのもあって、氷河期の第一波が終わった後の「何にもなかった世代」なんです。リーマンショックや大震災を経験しながら、ITの発展を肌でやってきた。ポケベル、携帯電話、ワープロ、パソコン……。
その変遷を体感的に理解しているから、構造を捉えることがたまたま得意になったんでしょうね。まあ、本当に「たまたま」なんですけどね。(笑)
凸凹な"特攻野郎Aチーム"とAIがもたらす「余白」の未来
――ここからは「組織」について伺いたいのですが、現在は佐柳さんを含めて4名のスタッフがいらっしゃいますよね。皆さん、やはり個性的なのでしょうか。
佐柳:全然違いますね、みんな。(笑)スキルセットもバラバラです。
――それだけ異なる個性が集まると、バランスを保つのが大変ではないですか。佐柳さんが「仲」を調整されているのですか。
佐柳:そうですね……まあ、苦労はもちろんありますよ。人種というか、考え方がエンジニアと営業と人事系では全く違いますからね。
でもね、僕も人材の仕事を長くやってきて分かったことがあるんです。人材っていうのは、人の会社に人を預ける仕事です。入社研修に30人来ると言っていても、絶対1割はブッチする[注11]んですよ。20人予定してたら、2人は絶対に来ない。前日まで「明日よろしくお願いします!」ってノリノリやったのに、当日は電話に出ない。
僕はそういうのをずっと見てきた。だから、どこかに「諦め」みたいなのがあるんです。人間っていうのは、自分の意志のないことはできない構造になってる。釣り竿を引いて無理に寄せようと思っても、寄ってくるもんじゃない、と。
――無理に引っ張らないマネジメント、ということですか。
佐柳:そうです。無理に何かをさせようとすると、エネルギーの無駄遣いになる。だから僕はベースとして、本田宗一郎さんの「得手に帆を揚げよ」をモットーにしています。
――本人に任せるスタンスなんですね。そうすると、教育とかっていうのはどうされてるんですか。
佐柳:本人が興味あることについては、結構詳しく教えますよ。あるスタッフは「ホームページのことはよく分からん」と言ってたけど、絵には興味があった。だからIllustratorの使い方を教えたら、勝手に自分で印刷の仕事を取ってきたり、名刺やTシャツを作ったり、個展までやってる。
人間、興味あることやったら覚えるし、勝手にやるんやなって思うんですよ。興味があること、苦にならんことをやるのが一番ロスが少ない。僕はそこに仕事を振ってますね。
――無駄が嫌いな佐柳さんらしい、「最小ロス」の考え方ですね。
佐柳:無駄な構造が嫌いなんでしょうね。ただ、その分、実務は僕がやってるんですけどね。(笑)お金の振り込みとかを任せられる奴、うちにはいないんですよ。
前にスタッフに「郵便出しといて」って頼んだら、宛先の住所に区も市も書いてなくて、「ナントカ町」だけ書いて出して、返ってきましたからね。「尋ね所ありません」って。いや、どこのナントカ町やねん、と。(笑)
総合的な実務能力は決して高くはなかったと思います。うちは。でも、商品開発とかクリエイティブとか技術力に関しては、かなり突出していると思う。まあ、本当に『特攻野郎Aチーム』[注12]みたいな感じですね、各分野に突出した人が集まる的な。
――その"Aチーム"を率いて、会社をどんな形にしていきたいですか。
佐柳:うーん……。会社は「公器」、公の器であるべきだ、という考え方が僕の中では一番しっくりきています。国ができない仕事をやって、税金を納めて。国から許されて仕事をさせてもらっているわけですから、やっぱり人の役に立つことをすればいいのかな、と。
たまたま今はITと人材の経験があるからそれを商売にしてますけど、十年後も同じ仕事をやっているかは分かりません。お困りごとは変わっていくし、仕事もそれに合わせて変わっていくんだろうな、って考えてます。
――世の中の変化に合わせて、自らを変容させていくわけですね。
佐柳:ええ。特に今はAIの技術が凄まじいスピードで出てきてますから。比例級数、と言うんですかね。今まで3ヶ月、4ヶ月かかっていた実装が、翌週にはできるようになっているような時代。学校に行ったことがない19歳の子が、とんでもなく便利なサービスを一人で作ってしまう。逆に、学歴とかキャリアを積んだ社員が「次は何ができんねん」ってなってしまう会社も出る。そんな時代がもうすぐそこに来ています。
でも結局、大事なのは「考え方」だと思うんですよ。「人が望むものを提供する」「お困りごとに迫る」みたいな。二重構造でずっと嘘をついてると、思考が薄まってリソースが無駄になる。だから、リソースの無駄を減らして、コツコツ新しいものを取り入れていく。この姿勢が一番大事なんじゃないかなと思ってます。
――AIやITの進化は、佐柳さんの仰る「理念の実践」を加速させるのでしょうか。
佐柳:ええ、加速させますね。ITをちゃんと使えば、経営理念に向き合う時間が増えると思うんですよ。例えばお客さんのことを考えたくても、現状の作業だけで一日が終わっちゃう。そこをAIに任せることで、隙間ができる。今まで何十時間もかかっていた「非付加価値業務を捌く仕事」が、何分かで済むようになる。その余白を、付加価値の高い仕事、理念に向かって進むための時間に振っていく。技術を使いこなせば、理念に向き合うこともできるし、お客さんに向き合う時間も増やせる。僕は、そういうふうに使うのがいいんじゃないかなと思っています。
――最後に、これからどんな人と一緒に働いていきたいですか。
佐柳:そうですね……。やっぱり、既存の構造に"絶望"しているような人。
大手企業の代理店とかで一生懸命頑張ってきたけど、この仕組みじゃあかん、と限界を感じてしまった人。「構造さえ違えば、自分の実力をもっと発揮できたのに」「収入ももっと上がったはずなのに」と。社長なんかどうでもいいから、とにかく顧客に向き合える人。
そういう人にとって、弊社すごくやりやすい環境だと思います。器用に何でもできる人には、うちの「当たり前のことができていない環境」はストレスかもしれませんが。(笑)
自分の中に一点突破の武器を持っていて、今の構造をひっくり返したい。そんな思いを持つ"Aチーム"の仲間と一緒に、世の中のお困りごとをシンプルに解決していきたいですね。
注8:松下電器産業株式会社(現:パナソニック株式会社)の創業者で、稲盛和夫氏と並んで「経営の神様」と称されています。
注9:実業家の堀江貴文氏。佐柳代表が言及しているのは、株式会社ライブドアの代表を務めていた時代になります。
注10:Google社が提供しているノーコードツール(プログラミング言語を一切書かずに、アプリやシステムを作れるツール)のことです。
注11:すっぽかすこと。「ぶっちぎる」という言葉に由来すると言われています。
注12:アメリカで制作・放送されたテレビドラマで、個性的な元・軍人たちが悪と戦う活劇です。