大浦 昌尚
株式会社アクアス 代表取締役
「水」のように、自由に、輝き、「美」を創る中編
「未来美育」の原点にある物語と、デザイン以上に「調和」を重んじる思想を紐解きます。損失を背負っても逃げない誠実さと、職人を相棒と呼ぶ敬意。そして、苦境さえ「おもろなってきたぞ」と笑い飛ばすアクアス流の精神。大浦代表が語る、理念が「仕組み」として駆動する組織の核心に迫ります。
「未来美育」に行き着いた三つの物語
――前編では、創業時の激流と「水」の哲学について伺いました。中編では、御社の根幹にある「未来美育」という理念について深掘りさせてください。ホームページでも拝見しましたが、この言葉に辿り着いた背景には、どのような歴史があったのでしょうか。
大浦: そうですね……。きっかけはいろいろありますが、一つは盛和塾での学びです。「自分たちの仕事の目的はなんなんや」「お前んとこは何業や」と、常に問い続けられるんですね。最初は「マンションを建てる仕事です」と答えていたのが、次第に「依頼人の方に喜んでもらう誠実な仕事をすること」に変わり、さらに深まって「入居して住んでくださる方のための仕事や」と。
――お金を払うデベロッパーさんだけでなく、その先の住人にまで目が向いたのですね。
大浦: はい。その時、株式会社フェリシモの矢崎代表と面談させていただく機会があって、自分たちがやってきた仕事を振り返ることになったんです。そんな中で「デザインにしたって、完成形の正解がないのに、何でこんなに考えるんやろうな」っていうのをずっと思ってたんですね。三つのエピソードが繋がったんです。それが「未来美育」という言葉の源泉になりました。
一つ目は、大きなクスノキのあるマンションの仕事でした。初めて挨拶に行った時、その土地にドーンとでっかいクスノキが立っとったんです。思わず「立派なクスノキですね。これ残して建てられたらいいっすね」と言ったら、オーナーさんがものすごく喜んでくれはって。
――建築の効率を考えれば、切ってしまうのが一般的ですよね?
大浦: そうなんです。ハウスメーカーや工務店さんはみんな「これない方が工事しやすい、安うできますよ」と言う。でもオーナーさんにとっては、子どもの頃からある村の守り神、シンボルやったんです。「損得やない、これを残したいんや!」という想いを受けて、やらしていただきました。出来上がって1年ほど経った頃、オーナーさんが「毎朝手を合わせに来るおばあさんがおるねん」と。駅裏の路地で、以前はゴミが散らかっとった場所が、クスノキを残したことで街が浄化されたように綺麗になった。しかも、家賃も上がり続けてる。あぁ、建物は土地の記憶を繋ぐ器なんやな、と実感しました。
二つ目は、阿倍野の再開発の物件です。夕暮れ時、出来上がった建物の写真を撮りに行ったら、交差点の信号待ちで自転車に乗った女子高生二人が、「うわ、なんか知らんけどめっちゃ綺麗!」と言って建物の写真を撮ったんです。
――建築について造詣がなくても、思わずシャッターを切った。
大浦: その時「うわ、嬉しいわ!」と思いましたよ。建物に興味なさそうなこの子らは、なぜ写真を撮ったんやろう。美味しいものを食べた時に「これ美味しかったで」と誰かに共有したいのと同じで、綺麗な景色を見て「ここ綺麗やったで」と誰かに伝えたいと思った。つまり、建物によって、この子らの中に「美しいものを誰かに伝えたい」っていう「美しい心」が芽生えた瞬間やん、て気づいたんです。
――それが理念の「美をもって美しい心を育み」に繋がるのですね。
大浦: ええ。安心安全は当たり前。でもその先にある、地域の方や住人の「美しい心が響き合う」ようなことをさしていただいてるんやな、と。それが確信に変わりました。
三つ目は、大阪・福島の物件。古い長屋が立ち並ぶ路地裏で、最初はもう猛反対されました。「お父さん、おばあちゃんを泣かすような仕事してんの?」って、テレビのニュースを見た子どもに言われるくらい揉めた物件やったんです。
――それは……精神的にもかなり堪える状況ですね。
大浦: [ 苦笑しながら ] ええ。でもね、出来上がって写真を撮りに行ったら、隣のパン屋のおばちゃんが出てきて。「兄ちゃん兄ちゃん!」呼ばれて、捕まった、怒られる! と思ったら、「兄ちゃん、綺麗になったやん! 道も広なったし、緑もようさんになって、人も増えて賑やかになって良かったわー!」と言ってくれた。
――反対していた人が、ファンに変わった瞬間。
大浦: そう。街を誠実に整えれば、地域の人にも喜んでもらえるんやな、と学びました。その三つの物語が重なって、「美をもって美しい心を育みみんなの輝く未来を創る」という理念が降ってきたんです。
「突き抜けたデザイン」はやらない――調和という美学
――「美」という言葉は主観が入るため、経営理念に置くのは難しい面もあると思います。大浦代表が考える「美」とは、どのようなものですか?
大浦: うちはね、建物だけが突き抜けたようなデザインは絶対にやらないんです。心がけているのは「調和」。その土地の歴史を調べ、周りの雰囲気を歩いて、街のいいところを汲み取りながら整えていく。他社より手間を多くかけてでも、その土地その土地に調和する建物を建てるんです。
――自分だけ目立てばいい、という考えの対極ですね。
大浦: ええ。マンションは住む場所ですから、地域に受け入れられないと住人も居心地が悪くなってしまう。以前、天満で手がけた物件では、隣に真っ黒なオフィスビルがあって、どこか威圧感があったんです。そこで、うちのマンションは柔らかい色を使いながら、隣の黒からグレーへと繋がるグラデーションのデザインを入れました。
――隣のビルの「強さ」を、自社の建物で中和させた。
大浦: そうすることで、街全体が馴染むんです。その「場所」単体じゃなくて「エリア全体」を見る。あとは空間でも、今だけじゃなくて「街の未来」に想いを馳せる。正解はないけれど、できる範囲で追求していこう、というのがアクアスのやり方ですね。
「絶対にケツをまくらない」――1,000万の身銭を切る誠実さの正体
――お客様から「まじめ」と評価される理由について、ホームページで拝見した兵頭会長のメッセージにもありましたが、大浦代表はどう捉えていますか?
大浦: 僕らにとって「まじめ」っていうのはミスとか時間とかいってるけれど、結局は「誠実に向き合ってやる」ことやと思ってます。例えば分譲マンションではまず入居日が決まってるけど、本当に入居していただくには役所関係の検査をクリアしてないとお客様は入居できないんです。何百世帯の人が引っ越し屋さんまで手配して、賃貸住んでる人は解約までしてるのに、キャンセルやって言ったら何億の損害になる。
――このプレッシャー、私では想像しきれません。
大浦: 以前、竣工間際になって、行政の指導ミスで排水管の基準が合っていないことが判明した物件がありました。やり直しに1,000万かかる。役所は「知らん」と言う。現場は「誰が金出すねん」と止まってしまう。
――そこで、どうされたのですか?
大浦: 僕が「うちが出すから、まずやってください」と言いました。設計の利益なんて吹っ飛びますよ(笑)。でも、引き渡しを待っているお客様を裏切るわけにはいかない。絶対にケツをまくらんとやる。
――その決断が、周囲を動かした。
大浦: 最後はね、現場側もお客様側も「アクアスだけに被らせたらあかん」と、費用を分担してくださった。
だから、うまいこと進まへん時のために、「目的は、今一番大事な所はなんやねん」っていう所を考えるようにしてます。例えば、危ないと予測されそうなことがあれば、 お客様に対しても2回3回提案をする。「いや、もうそこまでしつこ言わんでええって」って言われるまで。そこまでくればさっきの「思い込み」レベルの話ですからね。お客様からしたら「うるさいな」って思わはるかもわかんないです。でも、後になってもしものことが起こった時、そのお客様から「いやなんであの時に言うてくれへんかったん?」って言われるよりも「しつこいけど、よう言うてくれたな」って言ってもらえる方がええと思います。
協力会社は「下請け」ではない
――お客様にとって「最善」を目指す姿勢が「まじめ」とか「誠実」な取り組み方に現れるんですね。その姿勢は、社外のパートナーに対しても同じですか?
大浦: もちろんです。転職してきた社員が「下請け」なんて言葉を使ったら、僕はすぐに直します。「協力会社や」と。上下なんてないんです。
――そのお考えは、ご自身のどのような体験と関係しているのでしょうか。
大浦: ええ。僕は母方の実家が工務店で、子どもの頃から現場が遊び場でした。高校生の頃には土工のバイトもしてね。そこで職人さんが「設計の先生は偉そうに言うけど、現場のこと何もわかってへん」とぼやいているのをずっと聞いてたんです。
――図面がどうとかそんな感じですか。
大浦: そうそう(笑)。「漫画みたいな絵(図面)書かれて分かれへんわ」って。でも、実際に造る職人さんはプロフェッショナルなんです。「こっちの方が綺麗に収まるのに」という声に、設計者が変なプライドを捨てて耳を傾ければ、もっといいものができる。僕、現場で職人さんと話すのが大好きなんですよ。だから、 お互いコミュニケーションを取って、職人さんの力を120%まで引き出せたらと思いますね。
――先ほど、1,000万円の損害を被ってでも責任を貫いたお話を伺いましたが、そうした「誠実さ」を貫く一方で、経営者としては「事業としての効率」との戦いもあるかと思います。特に、御社が力を入れている保育園の設計などでは、いかがでしょうか。
大浦: 実はね、そこは今、むちゃくちゃ苦戦しとるんですよ。「未来美育」が一番発揮できる仕事やと思って取り組んでるんですけど……正直、ガツンとやられました。
――ガツンと、ですか。
大浦: ええ。今回手がけたプロジェクトでも、壁をアール(曲線)にしたりとか、面白い提案をたくさんさせていただいたんです。でもね、今、建築コストがものすごい上がってるでしょう? 当初の倍ぐらいになってしもて。そうなると、運営母体からすれば「事業」ですから、いかに効率よく、いかにお金をかけずに、という話になる。
――デザインのこだわりが、コストという壁にぶつかったのですね。
大浦: 最後の方にね、「これで喜ぶのはアクアスさんだけじゃないの?」って言われたんです。……これは、結構ショックでしたね。僕らは子どもたちのために、先生たちのためにと良かれと思ってやってる。でも、運営母体からすれば「お金がかかりすぎる」と。
――良かれと思って注いだ情熱が、空回りしてしまったような。
大浦: そう。単に「きっと喜ぶだろう」と自分たちの想いだけで突っ走るんじゃなくて、もっと「力」をつけなあかんなと痛感しました。先ほどの職人さんたちと一緒に美しいものを創っていくためにも。
――大浦代表がおっしゃる「力」とは、具体的にどのようなものでしょうか。
大浦: 影響力、ですね。例えば、安藤忠雄さんが「ここはこうすべきや」と言ったら、デベロッパーも「そうか、安藤さんが言うなら」ってなるでしょう? 僕らもそれぐらいの、圧倒的な実績と信頼に基づいた影響力を持たなあかん。デベロッパーさんにも職人さんにも「アクアスさんが言うなら、確かにその価値はあるな」と得心してもらえるだけの力をね。
――その「力」をつけるために、あえて組織を大きくしていくという選択肢も?
大浦: 盛和塾で「100億企業を目指さないのか」とか「50人規模を目指さないのか」と言われても、今まではあんまりピンときてなかったんです。でも、最近やっと気づいた。職人さんの誇りを守るためにも、自分たちの理想の建築を世に残すためにも、相応の規模と影響力は必要なんやな、と。
そして、デベロッパーさんや職人さんにも影響力を持たせていこう、と。 職人さんが「設計の人に逆提案してええんや!」って思ってもらえたら嬉しいし、デベロッパーさんからすれば現場のことをよく知ってる設計事務所はすごく安心感がある。一緒にお客様を喜ばせられたらというのが最近の思いです。
それが、今の僕の新しい挑戦です。
――その「職人の誇りを守る」という言葉、先ほどの現場のお話とも繋がりますね。大浦代表は、職人さんのことを本当にリスペクトされています。
大浦: だって、彼らがおらへんかったら、僕らの図面はただの紙切れですから。タイル屋さんとのエピソードでね、忘れられへんのがあるんです。いつもの様に職人さんと話しとった時、 「今回変わったタイル使わはりますな」って話が出たんです。それで、写真もつけて「こうしたら光がスーッと差し込んでもやもや~とした感じになる。綺麗でしょ、こんなんやりたいんですよ」って言ったんですよ。
――「もやもや〜」とした光。繊細な表現ですね。
大浦: そう。そしたら現場所長から電話がかかってきて。「見に来てくれませんか。タイル屋がうちの施工基準を超えて張っとるんです。貼り直せって言うても、職人が『これでええんや!』って言うて聞かへんのです」と。
――職人さんのこだわりが爆発したのですね。
大浦: 現場に行ったら、所長やら番頭さんやらが勢揃いしてピリピリしとる。そこで僕、実際に貼られたタイルに光が当たるのを待って見たんです。……そしたら、光がボロボロボロ……って反射して、めちゃくちゃ綺麗やった!
――大浦代表の狙い通り、いや、それ以上だった?
大浦: そう! 思わず「めっちゃええやん!」って叫びましたよ。そしたら職人さんが「ほら! 先生なら分かってくれると思たわ!」って(笑)。所長は「いや、でも基準が……」って困ってましたけど、「この『暴れ』がええんやないですか!」って押し切りました。
――職人さんが、設計士の「想い」を技術で超えてきた瞬間ですね。
大浦: 彼らは「どうせ俺ら職人やし…… 」って卑下して言うこともあるけど、ほんまは誰よりもプライドと知識を持ってクリエイティブな仕事をしてる。でも、職人さんをこう卑下させてしまってるのは僕ら建築士なんですよ。だからこそ、「あんたらおらへんかったら建物建てられへんですよ」って言いたい。そしてそういう職人さんに光が当たるような仕掛けをしたい。それがアクアスの代名詞である「夢の家 お仕事体験フェスティバル(以下、夢の家)」[注4]という取り組みの原点でもあります。
第五章:しんどい時こそ、「おもろなってきたぞ!」
――「夢の家」もそうですが、御社は社員教育においても、海外研修に行かせたり、一流の文化に触れさせたりと、非常に投資をされていますね。
大浦: 僕は専門学校卒なんで、大学に行ってないんです。だから若い頃、大手の設計士たちの会話についていけなくて、ものすごく悔しい思いをしました。「彼らに追いつくにはどうしたらええんや」って必死で。
――どのようにして、その差を埋めたのですか?
大浦: 本を読み漁るのも一つですけど、一番は「本物を見ること」やと気づいたんです。図面や写真で見るのと、実際にその場所に立って、光の入り方や空気感を感じるのでは、雲泥の差がある。だから社員にも、稼いだお金で海外へ行って、本物に触れようと言ってます。「ボーナスが多いのと、海外へ行くの、どっちがええ?」って聞いたら、みんな「海外です!」って答えてくれる。ええ社員に恵まれましたよ。
――その好奇心や向上心が、アクアスの挑戦できる風土を作っているのでしょうか。
大浦: そう! 「おもろい」っていうのはね、最強の言葉ですよ。関西人にとって、これは単なる「面白い」じゃないんです。
――大浦代表が考える「おもろい」の定義を教えてください。
大浦: 「ちょっとおもろいことしようか!」と言えばそれは「挑戦」やし、「あいつおもろいやっちゃな」と言えばそれは「個性」の肯定です。何より、納期がやばいとか、トラブル続きでしんどい時こそ、「……お、おもろなってきたぞ! どうする、これ?」って笑えること。
――楽しくなってきたぞ、と。
大浦: そうそう! しんどいことを「おもろがる」。関東の人が見たら「なんでこんな時に笑っとんねん」と不思議に思うかもしれませんけど、このノリが、不可能を可能にする原動力になるんです。失敗しても「おもろかったな」と言って、また次に進める。
――その「おもろい」の極めつけが、社員合宿での「五右衛門風呂」のエピソードだと伺いました。
大浦: そう、あれは最高ですよ! 農家民宿を借りてやるんですけど、そこに小さな五右衛門風呂があるんです。大人二人入ったらピタッとひっつくくらいのサイズ。
――そこに、社員が入るのですか?
大浦: 修行みたいなもんですわ(笑)。今の若い子はなかなか来たがりませんけど、酔うた先輩たちが二人で「苦行やー!」言いながら入っとる。そこに僕が薪を焚べに行くんです。
――代表自ら、焚き役を!
大浦: そう、僕はずっと焚き口の前に座っとるんです。中から「大浦さん、ビール!」って声がしたら、「はい!よろこんで!!」言うて冷蔵庫からビール持って行って、焚き口から渡す(笑)。これ、むちゃくちゃおもろいですよ!
――[ 笑 ] まさに、裸の付き合いというか、同じ釜の飯ならぬ「同じ釜の湯」ですね。
大浦: 結局ね、僕らはおもろいことがやりたいだけなんです。一緒に汗かいて、一緒に笑って、お客様を驚かせるようなええ建築を創る。そのためには、代表も社員も、職人さんも、上下関係なんていらんのです。「一緒におもろいことやりましょうか」という波長が合う仲間と、これからも新しい波紋を広げていきたい。
[ 大浦代表の豪快な笑い声が、静かなオフィスに響き渡る。その笑い声は、かつての激流を乗り越えてきた強靭な意思と、未来を無邪気に信じる少年の心、その両方を内包していた。 ]
注4:株式会社アクアスが、一般社団法人未来とコラボと共に主催する児童向けイベントです。文字通り「夢の家」を題材に絵を公募するほか、主催地の公園の整備を手伝うブースや、家づくりを中心に様々な仕事を体験するブースも展開します。