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大浦 昌尚

株式会社アクアス 代表取締役

「水」のように、自由に、輝き、「美」を創る後編

大浦代表のポートレート
  • #経営理念

大浦代表が直面した「気合と根性」の限界。失敗を個人のせいにせず、安心して挑戦できる「仕組み」へと昇華させた17年目の転換点。海外研修や家族会を通じ、人を「知る」ことに投資し続ける真意とは。AI時代に不可欠な「遊び心」を武器に、共に「おもろい未来」を創る仲間へ送る、魂のエールをお届けします。


気合と根性の「影」、そして17年目の悔悟

――前編、中編と、創業の激流や建築への情熱を伺ってきました。後編では、大浦代表がこれまでどのように社員の方々と向き合い、葛藤されてきたのか。その「影」の部分も含めてお聞きしたいと思います。

大浦:……そうですね。実は、去年の年末から今年にかけて、僕にとって、そしてアクアスにとって非常に大きな「試練」があったんです。去年の後半、大型物件が3つも4つもトトンと重なって、正直、組織としてキャパオーバーの状態になってしまった。そのなかで、一つの物件でお客様から大きなクレームが出たんです。

――組織が急成長するなかで、歪みが出てしまったのでしょうか。

大浦:そうです。大手のお客様だったので、厳格な「業務改善報告書」の提出を求められました。僕は必死で報告書を作って、「今後はチェックリストを徹底して、再発防止に努めます」と書いて出したんです。ところが、返ってきた言葉に愕然としました。

――どのような指摘だったのですか?

大浦:「大浦さん、令和2年の別の物件でも、同じような事象で『チェックリストを運用する』と書かれていますよ。それが今回もできていないということは、チェックリストの不備ではなく、会社自体の仕組み、あるいは社風そのものに問題があるんじゃないですか」と。……うわー、って思いましたね。

――本質を突かれた、と。

大浦:もう、その通りやな、と。ようよう考えたら、うちはずっと「心」の話ばかりしてきたんです。仲間を思いやろう、お客様に誠実であろう、と。だから、うちの社員はみんな仲間思いなんです。でもね、それが裏目に出ていた。

――仲間思いが、裏目に?

大浦:自分が仕事でいっぱいいっぱいになっていても、周りも大変そうやから「助けてくれ」と言えないんです。「俺が迷惑かけたらあかん、なんとか一人でやらなあかん」って、孤独に戦って、最後はパンクしてしまう。それってね、ある意味で「心理的安全性」がなかったっていうことなんですよ。

――言えない雰囲気を作ってしまっていた。

大浦:そう。何より、僕がずっと「お前、気合と根性が足らんねん!」と言い続けてきたからです。問題が発生しても、すぐに手をパッと上げて「こんなことが起こってしまいました!」と言える社風にしていなかった。それまでの僕は、報告に来た社員に「なんでや! あんだけ言うとったやろ、お前ちゃんとやってへんかったんちゃうんけ!」って、まず叱責から入ってしまっていたんです。

――過去には、それが原因で大きな「失敗」もあったそうですね。

大浦:……ありましたね……。昔はもっと必死やったから。一生懸命やっての結果なら叱らないんですけど、明らかに適当にやって言い訳から入る子(社員)に対して、こんこんと叱り続けてしまった。そしたら、その子が目の前で突然バターンと倒れて、痙攣しだして。

――ええっ……。

大浦:過呼吸やったんです。「あかん!」と思って、震えながら救急車を呼びました。病院の先生から「過度なストレスがあったんですか?」って聞かれて、「あ、すみません、僕です……」って。……あれは、経営者として一生消えない「失敗」ですね。

――その痛みがあったからこそ、今、大きな舵を切ろうとされている。

大浦:やっと気づけました。失敗して一番マズいと思ってるのは、当の本人なんですよ。だから、まず「よう言ってくれたな、大変やったな、ドキドキしたやろ」って、その勇気をねぎらって、「じゃあ、どうしようか」って、一緒に考えるのが大事やってわかったんです。同時に、指摘せんとあかん時は指摘しますけど、「俺、言ってたよな?」みたいな言葉はグーッと飲み込むようになりました。

今考えれば、これが「心理的安全性」の本質なんやな、会社の仕組みを変えんとな、と。17年目にして、やっとです。

管理ではなく「安心して飛ぶための仕組み」

――今、具体的に社内で始めている「仕組み作り」とは、どのようなものですか。

大浦:これまでは、マニュアルみたいなものは一切作ってこなかったんです。でも今は、どの段階で誰が何をチェックするのか、細かいスケジュールと役割分担を可視化しています。でもね、これは「管理」のためにやるんじゃないんです。

――管理ではない。では、何のためでしょう。

大浦:「安心して、思い切りクリエイティブに打ち込むための仕組み」です。失敗したらあかん、失敗したらあかん……って萎縮してたら、設計はどんどん無難でつまらんものになってしまう。でも、背後にしっかりした仕組みがあって、先輩たちが守ってくれるという安心感があれば、若手はもっと大胆に、もっと自由な発想で飛び込んでいける。

――「攻めていける」ための精神的なインフラですね。

大浦:そうです! だから今年のスローガンは「成功よりも成長を」にしました。今までは「成功せなあかん、失敗は許さん」というオーラを出してたけど、それよりも、失敗から何を学んでどう成長したか。そっちを追い求める。……不思議なもんでね、そう決めたら、神様が「一流の設計事務所はこういう試練も乗り越えるんやで」って、今、絶妙なタイミングで課題を与えてくださってる気がするんです。

「本物」に触れ、ヒーローになるための投資

――仕組みを整える一方で、社員の皆さんの「やりがい」についてはどう感じていらっしゃいますか。道半ばとはいえ、芽生えてきている実感はありますか?

大浦:そうですね、芽生えてるとは思ってます。だから、年がら年中そんな話はしますし、彼らの感性を刺激するための「投資」は惜しまないようにしてるんです。……実はね、今日も社員の半分ぐらいがいないんですよ。研修に行ってて。

――研修、ですか。どちらへ?

大浦:海外研修です。今年はバルセロナとイスタンブール。できるだけ毎年、海外に行こうと決めてるんです。やっぱり本物を見てほしい。光の入り方、街の空気感……そういうのを肌で感じることは、設計士にとって何よりの刺激になりますから。

――会社にとっても、社員にとっても、大きな「投資」ですね。

大浦:そうです、そうです。それともう一つ、やりがいを実感してもらう場として大事にしてるのが「夢の家」です。僕らの仕事って、特に若いうちは基礎となる地道な作業がずっと続く。外観のデザインみたいな華やかな仕事は、実は全体のなかでは少ないんです。

――若い時期ほど、理想と現実のギャップに悩みそうですね。

大浦:そう。社内にいれば先輩に叱られてばかりだし、お客様からもまだまだ「ぺーぺーの子」として見られる。でもね、「夢の家」に行くと、彼らは子どもたちにとっての「ヒーロー」になるんですよ。

――ヒーロー、ですか。

大浦:子どもたちが「すごーい!」っていう眼差しで彼らを見る。その瞬間にね、「あぁ、自分たちはこんなに尊い仕事をしてるんや」って、誇りを取り戻せるんです。自分がそうであったように、子どもたちに「将来、建築士になりたいな」と思ってもらえる。それだけで、やる価値はある。そう思ってるんです。

現場という「生きた教科書」を歩く

――そうした感性を育む教育は、普段の仕事のなかではどのように行われているのですか?

大浦:うーん……。基本的にはOJTですけど、入社した時に一流の建築家のドキュメンタリーを見てもらったり、あとはやっぱり、一緒に「現場」を歩くことかな。

――大浦代表が若手を連れて、これまでの物件を回るのですか。

大浦:ええ。若い子(社員)が入ると、自分たちが手がけた物件をずっと一緒に見て回るんです。あそこのエリアには何個かあるから、じゃあ行くか、って。現場に立って、「あそこの収まりはこうなっててな、当時はこんなに苦労したんやぞ」って、その時の思いをその場で話す。

――背景とか、歴史とか、事情とか……図面の上ではわからない「物語」を伝えるのですね。

大浦:そう。現場で見ないと、何を見てるかがわかりませんから。

やっぱりどうしてもデザインってパッと見ぃでまとまってるから「ええやん」って思うんですけど。どこをどう工夫したからこのような効果になる、っていうのは、その場でパッと言う。パッと見ただけで「ええな!」と思って実際に描こうとしても、なんかちゃうねん。やっぱ手を動かさないとわからんし。

「見て盗め」ではもうあかん時代やとは言われながらも、そこってどう伝えていったらいいか、なかなか難しい。だから、設計事務所専門のコンサルにも入ってもらってるんですよ。あとは2ヶ月に1回、著名な建築家を呼んで開催される勉強会にも参加させてもらったりもしてます。

――吸収して、自分のものにする意識が強いんですね。

不思議なことにね、うちに来る人は、工務店で戸建てをやってた人とか、全く違う環境から来る人が多いんです。キャリアで入ってくる子たちも、今の自分にないものを得ようとして、真っさらな状態で吸収しに来てくれる。

――「来たらもう、ここで全部吸収してくれよ」という大浦代表のスタンスが、彼らの成長を加速させているように感じます。

大浦:失敗したってええんです。失敗を恐れて動かないことの方が、クリエイターとしては致命的ですから。

家族を「知る」ことが、組織の根を強くする

――大浦代表は、社員のご家族に対しても、非常に手厚く、独自の向き合い方をされていますよね。

大浦:ええ。うちは内定が決まったら、僕がその子の親御さんや、既婚者なら奥さんのところへ挨拶に伺います。

――代表自ら、ご自宅まで行かれるのですか?

大浦:そうです。「うちはこういう会社で、こういう思いでやってます。大事なお子さんをお預かりします」って。やっぱり親御さんは、自分の子がどんなところで、どんな人と働くのか不安でしょう。特に設計の仕事は夜も遅くなることがあるから、「こき使われてるんちゃうか」って心配になる。だから僕の携帯番号も渡して、「何かあったら直接電話ください」って伝えます。

――それは親御さんも、そして社員本人も背筋が伸びると同時に、深い信頼に繋がりますね。

大浦:もう一つは、毎年5月の「家族会」です。全社員の家族が集まって食事会をする。この事務所に引っ越した時は、モニターを使って「お父さんは普段、こんな仕事をしてるんやで」って、みんなの前でプレゼンをしてもらいました。子どもたちが「おーっ!」って目を輝かせてるのを見るのは、最高に嬉しいですね。

――結構楽しそうですね。他にはどんなことをやってるんですか。

大浦:プロのマジシャンのマジックショーを観てもらったり、建築をやってるから大阪市内のラグジュアリーホテルを全館見学さしてもらったりしてましたね。そうやって家族同士が仲良くなると、社内のコミュニケーションも変わるんです。昔はね、僕も仕事人間やったから、社員が「子どもの運動会やから休みたい」って言うたら、内心「イラッ」としてたんですよ(笑)。

――[ 笑いながら ] 正直ですね。

大浦:でも今は、「はよ帰ったれよ!」「そら行ったれ!」って、心の底から言えるようになったし、そういう社風にもなりました。

あとは年1回の合宿で仲間の思いや夢を知ったりとか、木鶏会[注5]でお互いの捉え方の違いに気づいたりとかしてますね。

一人ひとりのことを知って、思いやる。そしてお互いの夢を実現するために会社ですることは何やって思うのが、一生懸命働く原動力になる。それが、僕が学んだ「知る」ことの大切さです。

若者よ、正解探しをやめて「おもろがれ」

――今、採用においても「大手にない魅力」を打ち出されているとか。

大浦:以前は大手並みの給料や物件規模を前面に出して、新卒を募集してました。でも、最後にはみんな「やっぱり大手に行きます」って辞退される。そらそうやな、と(笑)。

――そこで、打ち出し方を変えたのですね。

大浦:今は、会社案内の最初に「夢の家」の動画や合宿の様子、僕らの理念をバーンと出してます。「うちは距離感が近くて、こんなおもろいことを真剣にやってる仲間がおるよ」っていう社風を伝える。そしたら、大手に行ったけど「この人間関係はしんどい、もっと顔の見えるところで働きたい」と思う第二新卒の子とかが、共感して来てくれるようになったんです。

――これからアクアスの門を叩く若い人たちに、今、伝えたいことはありますか?

大浦:……「働くっていうのは、本来すっごい素敵で、楽しいことなんやで」って言いたい。そして、「誰も最初から完璧なんてできひん」っていうこと。

――「自信がない」と悩む若者が多い、と。

大浦:みんな、すごくまじめなんです。同期や他社の人と比べて、「自分はあんなに任されてない」「成長が遅いんちゃうか」って不安になって辞めていく子もおる。でも、そんなに急ぐ必要ないんですよ。僕はRADWIMPSの『正解』やMrs. GREEN APPLEの『僕のこと』っていう歌が大好きでね。YouTubeで歌詞入りを聴いてると、帰りの電車のなかで一人で泣いてしまうんです(笑)。聞くたびに僕は感じるんですよ。「皆、正解探しをして、どうすんの」って。「安心しいよ、誰と比べるんじゃなく、去年の自分より少しでも成長してたら、それでええんやで」って、肩を叩いてあげたい。器用な子より、少々どん臭くても一生懸命で、根気よくやる子と一緒に仕事がしたいですね。

未来の美は、人間の「心」の波紋から

――インタビューも大詰めという所で、御社が描く未来について聞いてみたいと思います。まず、経営理念が実現された時のイメージってどんなのでしょうか。

大浦:もっと美しいものが世の中に溢れてるっていう所でしょうか。

美しい、っていうのは人それぞれだと思うんですよ。だけど、その「美しい」と感じられる人が、たくさんいてる。そういう心が世の中に育まれてる状態ですね。だから、人のことを非難しあうんじゃなくて、みんながニコニコしてて、思いやりがあって、なんだか優しくなれるような世の中になってたらなー、って思います。

――それは、気持ちのゆとりの問題でしょうか。

大浦:そうですね、決して金銭的なものだけのゆとりじゃなくて、人を思いやり、尊重できるための「心のゆとり」かなー、って思いますね。

――最後になりますが、AIが台頭するこれからの時代。設計・建築における「クリエイティブ」の行方を、大浦代表はどう見ていますか。

大浦:AIはね、前例のある「正しい着地点」を出すのは得意でしょう。でも、建築において本当に「おもろい」ことっていうのは、その枠の外にあるんです。

――枠の外、ですか。

大浦:例えば、僕はゴルフが好きやからゴルフ練習場の設計依頼が来たら、「おもろい、やりましょう!」って飛びつく。サウナが好きやからスーパー銭湯の企画で盛り上がる。これってね、仕事じゃない趣味とか遊びをどれだけやってきたか、その「遊び心」からしか生まれてこないんですよ。

――事務所で本やPinterestを見ているだけでは、出てこない。

大浦:そう。実は僕はマニュアルなんて嫌なんです(笑)。マニュアル通りにしかならんから。クリエイティブっていうのは、知識に囚われない、ヒリヒリして、おもろいもの。だからこそ、仕組みで安全を担保して、心には常に遊び心の火を灯しておく。

――「おもろい」っていうのが、これからもアクアスのキーワードになりそうですね。

大浦:合宿での五右衛門風呂とか、タイル貼りの職人さんのこととか。そうやって仲間と、家族と、職人さんと、おもろいことを仕掛け続けていきたい。それがハマった時は本当に楽しいし、この楽しさを分かち合いたい。そう考えたら、やれる事って無限なんですよ。

自分たちが「おもろいな」って仕掛けをしていって、僕らの創る建物が、街に美しい波紋を広げていく。その「おもろい未来」を、一緒に創ってくれる仲間を待っています。

注5:致知出版社の人間学雑誌『致知』をテキストに、感想文の発表や美点凝視(相手の長所を認める)を行い、社内で人間力を高め合う月例の勉強会です。