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山名 宏紀

株式会社アウラ 代表取締役

「もぎ取られるような痛み」を超え「全員主役」を目指す前編

山名代表のポートレート
  • #二代目経営

IT業界の効率化の波に抗うように「誠実な対話」を掲げる株式会社アウラ。二代目代表・山名氏の歩みは、順風満帆とはいえないものだった。スタッフが去るたびに感じた身を切るような痛み、資金ショートの危機。山名氏の人間臭い葛藤と、そこから生まれた「一人ひとりが主人公」という理念の真意に迫る。

株式会社アウラ
2007年創業。Webサイトの制作や活用相談を中心に、Webの力で大小様々な企業の課題を解決する事業を行う。2022年から2026年まで、健康経営優良法人(中小規模法人部門)の認定を受けるなど、持続的成長の実践にも力を入れている。

IT企業の合理的な響きとは対極にある、生々しい痛みと祈り。山名社長が歩んだ18年は、去る仲間に「体をもぎ取られる」ような思いを重ねた再生の記録だ。かつての完璧主義者が、いかにして「85点の成長を待つ」リーダーへ脱皮したのか。冷たい画面の向こうにある「ひと」の営みを愛し抜く。そんな彼の傍らで話を聞くような感覚で、この魂の物語を読み進めてほしい。

制作人が背負った、二代目代表の重圧

――早速ですけれども、山名さんが事業を始めたきっかけって何ですか?

山名:株式会社アウラは、もともと私が立ち上げた会社ではなく、私は2代目なんです。私は創業メンバーの一人として当初からこの会社に関わってきました。前代表とは、以前同じWeb制作会社で働いていて、当時は上司と部下の関係でした。そこから、何か新しいことを自分たちで始めようという話になって、アウラを立ち上げたのが始まりです。

――それは何年前ですか?

山名:2007年12月創業・設立です。なので、18年近くやってきたことになりますね。

――なるほど。最初は二人三脚で。

山名:そうですね。創業当初は、それぞれ担う役割がはっきり分かれていました。前代表は経営や対外的な交渉、営業面を主に担い、私は制作を中心に担当していました。そうした体制でアウラはスタートしました。

その後、前代表がWebとは違う別事業に力を入れていく中で、次第に目指す方向ややりたいことに違いが出てきました。私は一貫してWebそのものが好きで、制作の仕事もまったく苦にならないタイプだったため、むしろ夢中になって取り組んでいました。当時から、Webには大きな可能性があると感じていました。そして、8年ほど前に別事業が法人化したタイミングで代表を交代することになりました。

――それで、8年前に代表になられたと。その時はどんな心持ちとか考え方をしてたんですか。

山名:そうですね。2人で会社を運営していた頃から、数字の面も含めて少しずつ経営には関わっていたので、「いよいよだな」という意識はありました。もちろん責任の重さは感じていましたが、それ以上に、自分の考えで会社を動かしていけることへの前向きな気持ちの方が強かったですね。ワクワクする気持ちもありましたし、それまでできなかったことをもっと形にしていきたい、という思いの方が強かったです。

――前向きな気持ちの方と伺いましたが、逆に重圧とかはありませんでしたか?

山名:ありました。特に大きかったのは、人の面です。代表が代わったことで、それまで前代表が持っていた人を引っ張る力の大きさを、あらためて感じる場面がありました。そこで、自分も前代表のようにやらないといけないのか、と迷ったこともありました。でも、考えていくうちに、やっぱりそれは違うなと思ったんです。前代表には前代表のやり方があって、自分には自分のやり方がある。最終的には、無理に誰かの真似をするのではなく、自分のやり方で社員や会社と向き合っていこう、という考えに戻っていきました。

――自分のやり方という所で、会社をどういうふうにしていきたいと考えていましたか?

山名:まず思っていたのは、みんなが働きやすい環境をつくることでした。私はずっと制作の現場にいたので、仕事の品質や生産力は、働く環境やチームの状態に大きく左右されると感じていました。技術の面では自分なりの自信がありましたが、一方で、社長として人を強く引っ張っていくようなカリスマ性には、そこまで自信があったわけではありません。ただ、会社としてより大きな仕事に取り組んでいこうとすると、自分一人の力だけでは限界がありますし、お客さまが求めることにしっかり応えていくためには、一緒に働くスタッフ一人ひとりの力が欠かせないとも考えていました。だからこそ、スタッフが力を発揮しやすい環境を整えることが大事だと思うようになりました。そうした考えが重なって、会社として「みんなが働きやすい環境をつくりたい」という気持ちが、だんだん強くなっていったんです。

「体をもぎ取られるような痛み」と100点を捨て"待つ"勇気

――謙虚で利他的な理念ですね。実践する中で一番苦しかったこと・辛かったことはなんでしょうか。

山名:やっぱり、人がなかなか定着せず、育ってきた頃に辞めてしまうことですね。せっかく時間をかけて育てても、また振り出しに戻る感じです。その繰り返しには、何とも言えない悔しさがありましたし、何とか変えたいという思いがずっとありました。私が引き継いだ当時は、言葉を選ばずに言うと……、昭和の古い体質が強く残っていました。新しく入った人に対しても、厳しい下積みを当然とするような空気があって、「有給?ありえへん!」ぐらいの感じでした。そうしたやり方に合わないと感じる人も少なくなく、入社しても1年、2年、あるいは少し力がついた段階で辞めてしまう。この繰り返しだったんです。

――昔のWeb制作ってこんな感じでしたもんね。制作物の出来の為に無理してでもやれ、とか。今ではそんな事も少ないですけど。

山名:そうですね。代表に変わる前は、人が辞めていく理由を前代表のせいにしていました。「こんなことを言うからだ」とか「お給料に問題がある」とか、いろんなことで。でも、自分が代表になってみると、社員がこの会社で先の希望を持てる状態をつくれていなかったんじゃないか、ということが少しずつ見えてきたんです。そうなると、もう自分は別のことをやっていたから、という言い訳もできません。結局は会社のあり方そのものに向き合わないといけないし、そこを変えていかなければ、人も定着しないと感じるようになりました。

――こういうことに向き合った時、本当に心苦しかったでしょう。

山名:本当に苦しかったですね。誰かが辞めるたびに、体の一部がもぎ取られるような気持ちになっていました。これだけ時間をかけて向き合って、応援して、少しずつ成長してきたのに、また振り出しに戻るのかと思うと、どうしても心が痛かったです。家族以上に長い時間を一緒に過ごしてきたスタッフもいましたし、その分、思い入れも強くなっていました。だからこそ、そういうことがあるたびに、まだここで働きたいと思える会社にできていないんだな、と痛感していました。そうしたことを何度も繰り返す中で、自分自身の関わり方も振り返るようになりました。自分では良かれと思っていても、こうしてほしい、こうあるべきだと押しつけるような関わり方になっていた部分もあったと思います。うざかったかもしれないですね。

――社員さんと向き合うスタンスに何か変化とかはあったんでしょうか。

山名:そうですね。以前よりも、社員と向き合う感覚は変わったと思います。今は、すぐに結果を求めるというより、一人ひとりの成長に時間をかけて向き合うようになりました。成長のスピードはそれぞれ違いますし、こちらが思う通りに進むわけでもありません。それでも、少しずつ力をつけていく過程を見守ることが大事だと考えるようになりました。もちろん、お客さまにより良いサービスを提供することはずっと大事にしていますが、それを支えていくには、やはり人が育っていかないといけない。その思いが、今の社員との向き合い方につながっていると思います。

――見守ってると、元クリエイターとしたらウズウズしませんか。

山名:ありますね。お客さまへのサービスは当然追求していましたし、自分としては、もう少し手を入れた方がいいんじゃないかと思うまま納品になることもあって、正直、気持ち悪さが残ることはありました。お客さまが「これで大丈夫です」と言ってくださっていても、本当に心からそう思っていただけているのかな、と気になってしまうんです。私が代表になる前は、そういう感覚のまま仕事が進んでいた時期もありました。

――やっぱり質って気になりますよね。社員教育ってどんな感じでしょうか。

山名:最初の頃は、社内で体系立てた教育プログラムはありませんでした。ただ、実際の教育はかなり丁寧に行っていて、入社後はマンツーマンに近い形で、先輩が横につきながら業務を一緒に進め、その中で仕事を覚えてもらっていました。いわゆるOJTが中心で、そうした期間を1年ほど経て、少しずつ独り立ちしていく流れでした。

――時間がかかってたんですね。社員教育はどの企業も多少の時間がかかりますけど、経営とのバランスを取って焦ることはありませんか。

山名:焦ることは、もちろんありました。ただ、そこはある意味、割り切っていた部分もありました。たとえば当時は、ホームページのリニューアル案件が多かったので、未経験で入社してきたスタッフにも、目先の利益よりまず経験を積んでもらうことを優先して仕事を割り振っていました。その子が育てば会社としてできることも増えていく。そう考えながら、今は育つための時間だと受け止めていました。

もちろん、「こうした方が早い」とか、「最初にこれを伝えておいた方が話は進めやすい」といったアドバイスをすることはあります。ですが、何でもこちらが決めた手順どおりに進めてほしい、ということではなく、たとえ手順が少し抜けていたとしても、本人がお客さまのことを自分で考えて行動したことには尊重します。実際に、そうやって自分で考えて動いた結果、うまくいけば本人も自信になりますし、私自身も、必要以上に心配しすぎていたなって思います。

そのうえで、お客さまがしっかり満足してくださっているのであれば、自分の中では80点や85点に見える仕事だったとしても、そこに必要以上にこだわる必要はないと思うようになりました。以前よりも、目の前の完成度だけではなく、人が育っていくことに重きを置くようになったんだと思います。言い換えれば、人に投資するという感覚に近いですね。

資金ショートと戦略改革。「人を大事に」と骨身に染みた記憶

――経営において人的投資を優先されてますが、経営的なピンチもありましたか?

山名:代表になって2ヶ月目に、資金ショートの危機がありました。前代表の退職金の支払いもありましたし、なにより自分自身、資金繰りの準備を十分にできていませんでした。

――イレギュラーだったんですね。その後の経営は順調でしたか。

山名:そうですね。だから私は、前代表の頃から少しずつ、会社のビジネスモデルを変えていこうとしていました。ホームページは作って終わりではなく、その後の運用や改善まで含めて関わっていく形に変えないといけないと思っていたんです。単発の制作案件だけを追いかけて、その都度仕事を取ってこないと会社が回らない状態は、経営としてやはり苦しいですし、先が見えにくい。私自身、営業畑の人間でもなかったので、継続的に仕事につながる営業先や関係性の蓄積が少なかったことも、当時はかなりしんどかったですね。

――こうビジネスモデルを変える際、周囲に伝えるときはどうされてたんでしょうか。

山名:そこはもう……ちょっとずつですね。お客さまに「これからはこういう形で関わっていきたい」と、一社ずつお伝えするところから始めました。ですので、急に保守やメンテナンスの案件が増えたわけではなく、少しずつ積み上げていった感じです。そうした方向性は社内にも共有して、営業先でもそういう話をしてもらえるようにしていました。

――こういう提案型のビジネススタイルって、結構社員さんの力が必要になりませんか?

山名:そうですね。実際、そういう提案がみんなすぐにできるかというと、当時はまだ難しかったので、基本的には私がほとんど担っていました。ただ、会社としては少しずつでも空気を変えていかないといけないと思っていました。ですので、お客さまと接する中で、少し手を加えた方がよさそうなことがあれば、私だけでなくスタッフからも気づいたことを伝えていけるようにしていたんです。

もちろん、人が辞めればまた振り出しに戻るような感覚になることもありました。それでも、このビジネスモデルを続けていくには、やはり人が育たないと成り立たない。だからこそ、そこは我慢してでも育成に取り組むしかないと思っていました。そういう時期が4年ほど続いて、今の「一人ひとりが主人公」という考え方にもつながっているように思います。

スタッフと、お客さまと。誠実な対話が育む唯一無二の絆

――社員さんに寄り添いながら改革を成し遂げたことが理念に繋がってるわけですね。そこに込められている思いを、ぜひ熱く語ってください。

山名:理念は、代表に代わってから今に至るまで何度か見直してきました。ただ、根っこにある思いはずっと同じです。

もともと私は、新しい技術によって今までできなかったことができるようになることに、とてもワクワクするんですよね。可能性が広がっていくことにも、一人ひとりの成長の幅が広がっていくことにも、大きな魅力を感じてきました。最初の頃の理念にも、そうした思いは込めていましたが、どうもしっくりきてない感覚でした。

そこから4年ほど前に、今の理念に変わりました。「一人ひとりが主人公として輝き」という言葉には、スタッフ一人ひとりに、仕事の中でイキイキとしていてほしい、自分が誰かの役に立っていることを実感してほしい、という思いを込めています。ただ仕事をこなすのではなく、自分で考えて、主体的に動いて、少しずつでも成長していく。そういう人が増えていけば、組織はもっと良くなると思っています。だからこそ、社長である自分は、みんながそうやって働ける環境をつくることが大事だと考えています。それができたら「私はすごく幸せな状態だな」って思うんです。

その先にあるのが、「共に『ココロオドル未来』を創造します」という言葉です。私たちはWeb制作というクリエイティブな仕事をしているので、何かをゼロから生み出して形にしていくこと自体が、もともと好きなんですよね。自分たちだけで完結するのではなく、お客さまと一緒に、これは面白いな、やってよかったなと思えるものをつくっていきたい。そういう思いが、この言葉には入っています。もちろん、それを実現するには、やっぱり力つけないと人の役には立てない。そのために、自分たちが成長していく中で、相手のこと考えて行動したり、プラスアルファが考えられるようにやっていこうと言っています。

――自社完結じゃなく、お客さまと。

山名:そうですね。結局、スタッフも僕に言われるより、お客さまから「嬉しい」って言われる方が当然嬉しいですし。社内だけじゃなくて、お客さまと一緒に何かを成し遂げないと、「主人公として輝く」のは難しいかなと思ってます。だから当社は、エンジニアであっても極力お客さまと接する機会を設けています。電話に出ることも含めて。

――エンジニアの方が直接、ですか。

山名:そうですね。そうするとお客さまの気持ちや熱量がわかってくるんですよね。エンジニアだと「言われたタスクをこなすだけ」になりがちなんですけど、そうじゃなくて「こういうのはどうですか?」っていう提案ができるようになる。

――人間力というか、コミュニケーションも重要になりますね。

山名:そうですね。エンジニアとして技術だけ磨いていればいいわけではなくて、デザイナーと一緒にお客さまのもとへ伺い、どんな思いで話されているのか、温度感まで受け取ることが大事だと思っています。言葉そのものだけではなく、話し方や反応の違いも含めて感じ取る……。そういう部分を、これからも大事にしていきたいんです。

――「御社のウェブ事業部です」ってコンセプトもありますよね。伴走とか誠実さとかを感じますけど、どのような思いでそうしていったのでしょうか。

山名:「御社のWeb事業部です」というコンセプトに「した(過去形)」というか、それが自然にそう「なった」っていうとこがあります。もともと前職の頃からそうだったのですが、Webがまだ今ほど当たり前ではなかった時代は、ホームページのことだけではなく、社内のネットワークのことやメールの設定のことまで、本当にいろいろ相談されることが多かったんです。そうやって関わるうちに、お客さまの会社の中のことや、仕事の流れ、現場で起きていることまで知るようになっていきました。

もう一つ大きいのは、ホームページは見た目だけ整えても意味がないということです。その会社がどこを目指しているのか、今どんな課題を持っているのか、何を大事にしているのか。そこまで分からないままつくると、きれいなだけで終わってしまう。だからこそ、外から制作だけを請け負うのではなく、その会社の「Web事業部」のような立場で関わっていかないと、本当に役に立つホームページにはならない。そんな思いが、ずっと根っこにあります。

――深く知るために深い関係性を持たないといけない、持つように、そうですね。

山名:そうですね。実際、お客さまとは長くお付き合いが続いている会社が多いです。一度ほかの制作会社に依頼されたあとで、「やっぱりアウラさんに任せたい」と言って戻ってきてくださることもあります。見た目や新しさだけではなく、会社のことをちゃんと理解したうえで一緒に考えてくれるところを求めておられるのかなと思います。そういう関わり方を積み重ねてきたことが、今のアウラらしさになっているのかもしれません。

柔軟なルールとユニーク面談。誰も「こぼさない」組織へ

――こういった理念とかコンセプトって、やっぱり社員さん一人ひとりが輝いてないと達成できないんですね。

山名:そうですね。理想では、こぼれることなく一人ひとりが、それぞれの強みや持ち味を発揮できる状態がいちばんいいと思っています。

――そうすると現在、結構悩まれているんですね。「こぼれ」てしまうことに。

山名:そうですね。今もそこは悩みます。クリエイティブの仕事は、どうしても向き不向きや得意不得意が出やすいですし、全員が同じようにできるわけではありません。だからこそ、苦手なことがある人を、別の強みを持った人が自然にフォローできるような環境にしたいと思っています。

ただ、実際にはそこが簡単ではありません。得意な人に負担が偏ると、「なぜできない人はそれで許されるのか」という声も出てきますし、逆に、「ここまではできてね」っていうレベルをどこにするか、その線引きも難しいです。何でもフォローし合えばいいという話ではなくて、最低限ここまではできてほしいという基準も必要だと感じています。

そのうえで、やっぱり大事にしたいのは、一人ひとりが自分の弱い部分や苦手なことも隠さずに出せることです。失敗があっても次に繋げる、ポジティブに受け取り前に進める。そんな空気のある会社にしたいと思っています。

――結構悩まれてますね。それでも実現の為に取り組まれたりはされてますか。

山名:まずは環境づくりですね。

――「環境づくり」って実際のところどんな感じでしょうか。

山名:去年の2月に「主任」という役職を置きました。それまでは、社長の私と部長がいて、その下はずっと横一列の体制だったんです。ただ、実際には10年目のスタッフもいれば5年目のスタッフもいて、経験の差はかなりありました。そういう中で、横一列のままだと、言うべきことがあっても言いにくい空気がどうしてもあったんですね。

そこで勤続年数に関係なく、主任という役割を設けたことで、少しずつ組織が回るようになってきました。本人も、それまでは同じ立場の感覚が強くて言いにくかったことが、役割を持ったことで、きちんと伝えないといけないという意識に変わっていったんです。実際、注意すべきこともちゃんと伝えてくれるようになって、本当に変わっていきました。

その変化を見て、人は自分の役割がはっきりすると、ここまで変わるんだなと実感しました。自分はここを担うんだという意識が持てると、責任感も出てきますし、逆に伸び伸びとやりがいを持って動けるようにもなる。環境づくりというのは、ただ優しくすることではなくて、その人が力を発揮しやすい立場や役割をきちんとつくることなんだと実感しました。

――適した役割を与えて、期待をかけることが大切なんですね。

山名:そうですね。役割を持ってもらうことに加えて、今は毎月、全員と1時間の個別面談も続けています。面談は私ではなく部長が担当していて、会社から一方的に話す場ではなく、本人が自由に話せる「フリートークタイム」もしています。そうすると、普段の仕事の場では出てこないような会話や、その人が今どんなことを考えているのかが見えてくるんです。

そこで距離がぐっと縮まることもありますし、会社での言動の背景に何があるのかが分かることもあります。仕事のやり取りだけでは見えない、その人らしさや考え方が見えてくるんですね。そういう内容は部長から報告を受けていて、それによって一人ひとりの特徴をより理解しながら、表には出にくい細かな部分も含めて関わっていけるようになってきたと感じています。

――相手の話を聴くことに徹して、プライベートまで話せる関係性。すごいですね。

山名:その部長が、なんて言うんでしょう、すごく人を見るのがうまいんです。スタッフからも、「なんでそこまで分かるんですか」みたいに言われるくらいで。こういうことに向いているとか、逆にこういうことでしんどくなりやすいとか、そういうところをよく見てくれていて、その観察力も参考にしながらバランスを整えています。

もちろん、本人同士でプライベートな話もしているので、私が細かいところまで聞くことはありません。ただ、部長が要点を整理して伝えてくれることで、そのスタッフの意外な強みや特性が見えてくることもあって、そこはすごく大きいですね。

――1ヶ月に1回の深い面談で、一人ひとりを詳しく知る。具体的に「大切にする」とはどういうことなんでしょうか。

山名:大切にするというのは、何か特別なことをするというより、その人が無理なく働き続けられる形を、一人ひとりに合わせて考えることだと思っています。正直、お給料の面で飛び抜けて良い会社ではありません。ただ、できるだけ毎年きちんと昇給できるようにしたいという思いはずっとあります。それに加えて、働き方の部分はできるだけ柔軟に考えたいと思っています。実際に、結婚を機に四国へ移ることになったスタッフとは、辞める前提ではなく、どうすれば働き続けられるかを話し合って、コロナ前から完全リモートを取り入れました。また、実家の事情で通勤に1時間半以上かかるようになったスタッフには、会社のルールを見直して、交通費の負担や出勤時間を調整しました。そうやって、その人の事情をちゃんと見たうえで、どうすれば続けて働けるかを一緒に考えることが、うちにとっての「大切にする」ことだと思っています。

――個々の事情に合わせて変えていく。

山名:そう。変なルールに縛られて働きにくいってならないように、柔軟にルールを変えて「自由に、柔軟に」やっていく。これも環境づくりの一つですね。あとは仕事の進め方。さっきも言いましたけど、なるべく口出しせずに本人が「こうやろう」と思っているなら、よほどズレてない限り、そっちを尊重してやってもらう。人数も少ないんで、強みを活かしてバランスを取るようにしています。